泣く

3月 2, 2021

お父さんは、今夜が山です。

近くに待機をお願いします。

えっ はい。

大阪は新型コロナで特別警戒地域の真っ只中。

なんもこんな時でなくても。。

誰も宿泊していないホテルから病院までタクシーで15分。

待機と言われても、、、

ご飯を食べて、ニュースを見て、風呂に入る。

いつもと何も変わらない。

0時に電話が来ない事を祈りながら、少し横になる。

ぼーっと天井を見る。

子どもの頃の思い出がどんどん巡る。

薄く窓を開けている空はどんよりとし、大阪らしいパトカーや救急車の音がひっきりなしに

聞こえてくる。

鳴るな。電話。

午前中に病室で見た親父は、人口呼吸機のお陰で何か一生懸命歩いているような

息遣いだった。頑張ってる風でもあるし、疲れているようでもあった。

その姿が天井に浮かび上がる。

頑張ってるんか?頑張りたいんやったら頑張ってや。

しんどいんか?

しんどいんやったら、休んだらええやんか。

好きにしたらええんやで。

そう言葉をかけるしかなかった。

0:30 電話が鳴った。病院からだ。 ドキドキしはじめた。

来れますか?

あっ。はい。すぐ行きます。

服を羽織り、そのままホテルを出て、タクシーに乗り込んだ。

タクシーの運転手も空気をよんだか、一言も言わず、スピードを上げてくれた。

流れる景色。息が荒くなった。

なんや?この感覚。

涙が溢れて、又息が荒くなる。

しばらくたつとふと収まる。

また、ふと親父の顔を思い出すと涙が溢れて息がしんどくなる。

これを何度が繰り返していると病院に車がついた。

急ぎ足で、裏口から入り、5階に上がる。

暗い病棟に、その部屋だけが眩しいくらいに明るかった。

沢山の機械とお医者さん、看護師さんの中に親父がいた。

その明かりを目指し、走るスピードあげようとするが、足がもつれる。

自分の体がぐんと重いことに気づく。

さして、病室の中に入った。

その時、機械が、突然大きな音を出した。

ふと、その機械を見ると数字の0が並んでいる。

人口呼吸器は動いている。

最低という表示が出ているが、まだ、一生懸命呼吸しているように見える。

しばらく、沈黙が続いて、僕は少し冷静になれた。

はじめさん来られたんでお父さんは今亡くなられました。

状況が少しづつ見えてきた。心臓は止まって、自動の呼吸器だけが動いている。だから

生きているように見える。

ぼーっとするしかなかった。

看護師さんが、お父さん、ものすごい頑張ってはりました。

頑張り屋さんですね。

この言葉で、僕は崩れてしまった。

涙は今まで沢山流してきたが、これほど、大粒で、これほど暖かい涙を

出した事がない、そんな涙が目からどろっと溢れ下に落ちた。

頑張り屋って、、、、

人生全部や。この人は 頑張ってはったんや!

何を話したかもう覚えてない。

甲子園、白浜、阪神、ピアノ、焼肉、おかん。

しばらく時間が経過した。

もう、ようやった。

ゆっくりしてほしいという気持ちにもなってきた。

けたたましい、機械の音よりも、静かにゆっくり寝かせてあげたいと。

呼吸器もういいです。

わかりました。

全てが終わって、病院を出たのが午前3時。

真っ暗な出口に先生と看護師さんがご丁寧に送ってくれた。

一人でふらふらと道路まで歩き始めた頃、天から雨が降り始めた。

泣くなよ。おとん。

俺が泣いてしまうやろ。

久しぶりに夜中一緒に歩こか?

暖かい缶コーヒー2本買ってな

ずぶ濡れで歩けるだけ歩こか。

思い出して、泣いて、歌って、ゴミ箱蹴って、

コーヒー飲んで、タバコ吸って、笑って、

また泣いて、、、、

死んだんかもしれんけど、

僕の心の中では普通に生きとる。

ずぶぬれのままホテルに着いた。

真っ暗な浴室に熱いお湯を入れ、泣き果てた。